2016年09月29日

(認知症高齢者向け)主治医(かかりつけ医)意見書作成に役立つ問診票(v1.3)

以前「主治医(かかりつけ医)意見書作成に役立つ問診票を」というタイトルで意見書作成のための問診票v1.1というものを掲載させていただきました。 http://shimada-no-dem.seesaa.net/article/429960565.html

内容的には役に立ったのですが、結果を見ていざ意見書に役立てようとすると、正直、何か煩雑で使いづらいものだと感じるようになりました。
自分で作っておきながら、どうやって判断するんだったろうかと己のブログを訪問することも多々ありました。
そこで、もう少し使いやすいものにしたいと考え以下の問診票に変えました。これで大分ストレスは解消されたと思っています。
また、ご参考になれば幸いです。

意見書作成のための問診票v1.3.pdf

意見書作成のための問診票v1.3.odt



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2015年11月28日

認知症高齢者の運転について

いつも気を付けて診療していたつもりでした・・・
初診や通院中の人やご家族に声をかけて、自動車の運転をしていないか確認してくれるよう、スタッフにも注意していました・・・

それでも、見落としました!

まさか、ご本人が運転して受診していたとは思いもよりませんでした。
奥様がいつもそばについて仲睦まじく診察室に入ってこられていたから、です。
そもそもこの方が認知症外来に来られたきっかけは短期記憶障害です。
何度も何度も同じことを聞くというものです。実行機能障害などはありませんでした。
MMSE(ミニメンタルステート検査、長谷川式テストのようなもの)は21点で、軽症の認知症に入りました。
この検査だけで治療を決めたわけではありませんが、この時からアリセプトの服用が開始となりました。
 それから約半年が経過して奥様から「最近物忘れがひどくなった」と報告がありました。事情を聞いたら、奥様が用事を済ませている間にすぐそばの薬局で薬を作ってもらえば済むものを、わざわざ車で家の近くの薬局まで出かけて戻ってきた、というのです。いつもしていることができなくなった、理解と判断力が低下してきた、ということですが、「わざわざ車で」というのが引っ掛かります。
 「もしかしてご主人は車を運転しているのですか?」と質問したところ、質問の意図が分からないというように奥様は「はい」と答えます。「え、ご主人は認知症の治療中ですよ」、「はい、でも、まだそんなに悪くはなっていないと思ってましたから」、「最近の事故のニュースでも、いろいろ取り上げられてますよね」、「はい、でも、そばで指示してあげたら問題なくできるので」、「でも、認知症のご主人が仮に事故を起こしてもご本人には責任はないですが、奥様と僕は責任を問われるかもしれませんよ、僕から直接ご主人にお話ししましょうか?」、「そうですか、少し時間を下さい、話し合ってみますので」、そう言って帰って行かれました。

 この方を通して、早急に考えなくてはならないいろいろなことが見えてきました。

1.認知症高齢者の運転は、禁止すべきか?
2.誰が「禁止」と伝えるのか?
3.認知症なら全員「運転禁止」なのか、どこで線引きすればよいのか?
4.社会啓蒙はどの部署が行うのか、警察関係か、自治体関係か、医師会関係か、・・・?

1.の質問を投げかけると、誰もが、「そりゃあ、禁止すべきでしょう」というでしょう、特に昨今のニュースを観ている人なら。でも、そんなに簡単ではないのです。現代は車社会です。一家に一台の時代ではなくなっているくらい、車が普及しています。歩いて5分のところでさえ車で行っちゃいます、帰りは買った物で手が塞がるから。買い物はしなくても、運転手の役目で重宝がられている夫もいます。こんなに便利な車と運転手が突然いなくなったらどうしますか?
スーパーで買った物を後で届けてもらうサービス、高齢者向けの無料パスや、タクシーの無料回数券、介護保険による通院サポート、など社会資源の活用が必要です。全国的に網羅できますか?大きな顔するな、なんて気持ちではサービスとは言えないんですよ。
2.はどうでしょうか?「認知症の診断」をした医師が診断書を発行するよう義務付けすればいいんじゃない?「車の運転は禁止する」と上から目線では言いにくいでしょうから、「認知症」と診断書に書かれたら運転は禁止される法規を作ればいい・・・。怖いですね。あそこに行ったら免許証を取り上げられるぞ、みたいな。診断だけならいつものこと、それは報告義務があるのでしょうか?どこに報告したらいいのでしょう?
自己申告? それで、昨今の大事故は未然に防ぐことができたでしょうか?
3.「認知症高齢者の運転事故防止対策」は早急に考えなければなりません。しかし、だからと言って「まずは認知症と診断された高齢者の運転は全面的に禁止しよう」という決断に至って問題はないのでしょうか?
例えば、今回取り上げた認知症の方ですが、奥様は、ご主人がもともとせっかちな性格の人だから両方とも同じチェーンの薬局なので家の近くの店を思い出して行動したんだろうと思っています。しかし、僕は、常識的に考えて病院のそばにある薬局に薬をもらいに行くのが筋だし、奥さんをそこに置いてわざわざ遠くまで運転してまた戻ってくるなんてことはしないと考えるので、これは認知症の症状ととらえるわけです。
過去に運転中の失敗はないと奥様は考えるし、僕はこの状況を知ってしまうと事故があってからでは遅いでしょうと考える。堂々巡りです。法律で決めたことならだれもが納得できる内容とはいいがたいのです。きちんとした線引きを誰かがしなければなりません。誰がやってくれますか?
4.『認知症と診断された方は運転免許証を返上しましょう』みたいなポスターや、パンフレットの作成、早急に取り組まなければならないことですが、どこの管轄なのでしょう?公安委員会は運転免許の更新の時に活躍してくれていますが、一部の高齢者からは嫌われています。

さて、ここからが本題、というか、ブログですので個人的見解だと思って読んでください。

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2015年11月20日

主治医(かかりつけ医)意見書作成に役立つ問診票を

 先日、某製薬会社の主催で「認知症エリアサミット in 後志」という会に参加させていただきました。
大阪の高槻市にある認知症疾患医療センター長の森本先生のご講演を拝聴し意見交換を行いました。とても、刺激になるお話でした。
この1,2年の間、いろいろと仕事に追われブログの更新もしておりませんでしたが、その間個人的にはとても刺激を受け啓発される方たちとの出会いに恵まれておりました。ここで改めて感謝を申し上げる次第です。

 さて、今回のサミットでは、突然送られてきたかかりつけ医の意見書に翻弄されることが多々あり、その解決策として、「事前に記入してもらったら容易に意見書の記載ができるような問診票」を作ったことがあるというお話に心動かされ、早速このタイトルとなった次第です。

まず最初に、個人的に作ってみた問診票なるものを提示いたします。

意見書作成のための問診票v1.1.pdf

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2013年01月22日

認知症について(1) ― 認知症と高次脳機能障害(1) ―

脳外科なのに、何でも相談に乗れる医者になりたいとがむしゃらにやっていたら、いつの間にか認知症とかかわりが深くなって・・・気が付いたら、もう10年は過ぎたでしょうか。なんだか、あっという間の10年でした。でも楽しい10年でもありました。認知症は未知の世界に見えました。自分が開拓者になることもできる・・・なんて、そんな大それた野望はありませんでしたが、少なくとも、医学の進歩と一緒に歩める喜びみたいなものがありました。

ここでまとめようとしていることは、もしかしたら、「脳外科医なら当たり前のこと」ならぬ「認知症研究者なら当たり前のこと」か、「認知症治療に携わる資格なし」といわれる事柄を延々と書き連ねることになるのかもしれません。どちらの非難も甘んじるつもりです。
なぜなら、これは僕の足跡であり、ここがこれからのスタート地点でもあるからです。

前置きはこのくらいにして、本題に入ります。


スライド2.GIFおよそ脊椎動物の脳(脳胞)の発生学的分類は共通しており、だいたい左の図のような5種類に分類されます。そして、ヒトの脳においては終脳は大脳、間脳は間脳、中脳は脳幹、後脳は小脳、髄脳は延髄に相当します。つまり、脊椎動物にあっては、爬虫類であっても、ヒトであっても、これら5つの脳があるということです。

スライド3.GIF
ところで、みなさんはこのようなイラストを見たことはありませんか?
理性脳(新哺乳類脳)
情動脳(旧哺乳類脳)
反射脳(爬虫類脳)
 
この図で誤解されやすいのは、爬虫類以下の脊椎動物には大脳がないように見えるところです。
しかし、脊椎動物には皆同じ脳の発生があるのです。つまり終脳と呼ばれる脳は爬虫類でも存在しているのです。ただ、発達の度合いがそれぞれ違うだけです。
スライド4.GIFスライド5.GIFスライド6.GIFスライド7.GIF






このように、どの脊椎動物にも終脳までの脳の発達がありますし、同じ哺乳動物でさえも、終脳の発達の度合いは種によって異なっていることがわかります。脳は、それぞれの動物の種類にとって、より重要な中枢がある部位をより前方に移動させて大きく発達させてきたのです。(ヒトの脳では、特に前頭葉が前方に大きく張り出していて、この部分がより重要な中枢であることがわかります。)
 爬虫類では、心拍、呼吸、血圧、体温などを調整する基本的な生命維持の機能をつかさどり、種の保存というよりも自己保全の目的の為に機能する脳の構造が最優先され、
 イヌやネコなどの哺乳動物の脳では海馬、帯状回、扁桃体といった“大脳辺縁系(limbic system)”が発達しました。これは、個体の生存維持と種の保存に役立つ快・不快の刺激と結びついた本能的情動や感情行動を起こさせる機能と、危険や脅威から逃避する反応や外敵を攻撃する反応を取る原始的な防衛本能をつかさどる脳の構造です。
 そして、ヒトの脳において著しく発達したのは、知能・知性の源泉である新皮質、理性脳です。
ヒトの脳には、この生物の進化の歴史が内蔵されていると説明し、新皮質(neocortex)を理性脳(Rational brain)と表現したのは、Paul D. MacLean という人ですが、これこそが高次脳機能をつかさどる場所というわけです。(注:僕は進化論に賛同するものではありません。念のため)
実は、僕は、高次脳機能障害という用語は知っていますが、高次脳という用語があるのか、高次‐脳機能という用語があるのか、よく知らないのです。
だから、ここでは理性脳を「高次脳機能をつかさどる場所」と表現しておきます。なぜなら、ここの障害こそが高次脳機能障害だからです。

以下に、脳の局在と主な働き、および主な障害名を載せたイラストが続きます。これを読んでくださる方の、脳の解剖についての再確認の、手助けになればと思い掲載しました。同じようなイラストが続きますので、邪魔でしたら一気に飛ばしてくださってかまいません。
スライド15.GIFスライド16.GIFスライド17.GIF
  




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以前に、認知症のリハビリテーションについて、自分勝手な解釈に基づくリハビリ理論を掲載しまた。そこでの僕の理論は、「認知症のリハビリテーションについての、認知神経科学的根拠に基づく、ターゲット器官は大脳皮質の前頭連合野である」と主張しました。そこに付録として、大脳皮質連合野の働きを簡略化したアニメーションを載せたのですが、多分、ご覧になることは困難だったのではないかと思います。下のイラストは、そのアニメーションを排除したものです。
スライド3.GIF スライド10.GIFこれは視覚や聴覚によって得られた情報を元に情動的行為が検証され、より高次の理性的行為としてプログラムされて、「その人らしい」行動が起こされる様子を簡略化したものです。もちろん、個人的な思考モデルで、科学的な実証はありません。
この「その人らしさ」を産み出しているのは前頭連合野です(どうして個性が生まれるかという問題は細胞のミトコンドリアレベルの話です)が、頭頂連合野、側頭連合野、後頭連合野といったほかの大脳皮質連合野や大脳辺縁系、小脳などとの緊密な連携がなくなれば本来の高度な機能は発令されません。
すなわち、日本でいうところの「高次脳機能障害」というのは、この連携器官が傷害されたり連携が断たれた結果か、もしくは脳の中央執行機関たる前頭連合野自身が傷害された結果起こってくる「認知機能障害」のことを指しています。


もう少し続きます・・・
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認知症について(2) ― 認知症と高次脳機能障害(2) ―

@脊椎動物の脳の中で、ヒトの脳で著しく発達したのは大脳皮質連合野であり、とりわけ前頭連合野がもっとも重要な部分として特異的に前方に突出しているということをお話ししました。
A「その人らしさ」を作り上げているのは前頭連合野であり、他の大脳皮質連合野との密接な連携がどこかで断たれた状態が高次脳機能障害だとお話ししました。
さらに、
B高次脳機能障害の各種障害についても取り上げました。
C認知症の中核症状は認知機能障害であると書きました。
最後に、
D「認知機能障害」という言葉に注目と書きました。

僕は高次脳機能障害という言葉は廃止すべきだという立場をとっています。
高次脳機能障害(higher brain disfunction)という言葉は海外では使われません。海外では認知機能障害(cognitive impairment)といいます。cognitionとは認知という意味ですから理解しやすいですが、higher brainは、何を意味するのか曖昧でわかりづらいと思います。
高次脳機能障害を認知機能障害という言葉に置き換えると、上記のA、B、Cは
A「その人らしさ」を作り上げているのは前頭連合野であり、他の大脳皮質連合野との密接な連携がどこかで断たれた状態が認知機能障害
B認知機能障害の各種障害について取り上げた
C認知症の中核症状は認知機能障害である
となります。
認知症というのは認知機能障害とあまりにも似かよった言葉ではありますが、「認知症と認知機能障害は同義語ではなく、認知症は認知機能障害の一部分」に過ぎないということです。
なぜこれほどに難解な用語になってしまったのでしょうか?
本来なら、世界に足並みを揃えて、高次脳機能障害を「認知機能障害」と言い換えたかったのに、それを阻んだのは「認知症」でした。

日本で言う「認知症」は、海外では dementia といいます。認知機能障害は cognitive impairment でしたが、認知症は dementia と明確に区別されています。
この dementia という言葉は古くから使われてきた言葉であり、日本語にすると「呆け、痴呆」だったのです。
ここで面白いことに気づきました。
「呆」という字は「保」という字に似ています。「保」の人偏が取れると「呆け」になる、その人らしさを保てなくなった状態が呆けだといっているように思えます。
「痴呆」の「痴」という字も、知性を保てなくなる病という風に考えると、「痴呆」という言葉はまさしく「認知症」を指しているのです。
一方の dementia ですが、この言葉の語源はラテン語の demens から来るということですが、この言葉こそが「狂った状態」を意味する言葉であり、差別用語に思えるのです。
用語の見直しをすべきは dementia なのです。
痴呆や呆けが差別用語だという言葉の歴史を残念ながら僕は知りません。

認知症と認知機能障害という誤解を招く用語を作ってまでも、「痴呆や呆け」という言葉を排斥するのはどうかと思うのです。

言葉の誤解は認知症の理解にも影響を与えているように思います。
認知機能障害というのは、主に大脳皮質連合野の機能が欠如した状態を意味していますので、前頭連合野に限らず、頭頂・側頭・後頭連合野のどれかの機能欠如によってもその部位に特徴的な認知機能の障害が現れます。半側空間無視や失語などのように。
認知症は海馬や大脳皮質の萎縮が特徴的といわれ続けてきましたから、「ああ、大脳皮質が全体的に萎縮してきたら認知機能低下がたくさん出てくるのは当たり前だな」と考えてもあながち間違いではないでしょう。事実、僕も最初はそう誤解していました。しかし、今の僕の考えは、「認知症と認知機能障害は同義語ではなく、認知症は認知機能障害の一部分」で「特に前頭連合野が傷害されたもの」という考えです。
なぜ、そう考えるにいたったか・・・

その理由のひとつは、
大脳皮質連合野の障害部位によって認知症症状の発現に違いがあるかのように思っていたが、認知症の人に、典型的な半側空間無視の症状を認めた人は一人もいない、
地誌的障害は後頭連合野の症状だが、脳梗塞の症状として認めた人はいたが、だからといって認知症にはならなかった、
というものです。

そしてもうひとつの理由は、前の号で書いた、「失行は、左頭頂葉が損傷中枢で、ここに蓄えられた運動の順序に関する記憶が遮断されるためと考える人もいるし、前頭連合野でイメージした運動を実行に移すことが不完全なためと考えている人もいる」という二通りの考え方です。つまり、認知症(痴呆症)の人の中核症状である認知機能障害は後者の考え方で説明できるというものです。
スライド10.GIF
この思考モデルを作ったとき、認知機能障害は頭頂・側頭・後頭連合野のどれかが単独に損傷すれば前述した特徴的障害が起こるが、前頭連合野が損傷した場合にはその広がりや部位によって複数の認知機能障害が起こりうるのではないかと考えました。そしてそれを支持してくれたのが、上記の記述だったのです。

脳外科として多数のCTやMRIを見てきたものとしては、脳萎縮の部位と予想される症状発現とを一対一で結び付けたくなるのですが、脳の萎縮部位と認知症症状の推測が一致していたと感じた例は皆無に等しく、脳梗塞の局所症状のような典型例には出会わないのです。それよりも、前頭連合野の活動が衰えてくればおのずとそこと密に連携をとっていた他の連合野や運動野・知覚野なども「廃用性細胞萎縮」をきたして大脳全体におよぶ脳萎縮が起こってきてもいいのではないかと思うのです。
こうして「前頭連合野の活動が傷害されてきて起こるさまざまな認知機能障害」がいわゆる「認知症」(「痴呆症」)なのだと結論付け、「認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ」http://shimada-no-dem.seesaa.net/article/232380320.html というタイトルで、「認知症のリハビリテーションにおけるターゲット器官は大脳皮質の前頭連合野である」と主張したのです。

ここで大きな疑問にぶつかります。
それは、認知症(痴呆症)には現在いくつかのタイプが存在するのに、すべての認知症(痴呆症)に共通して「認知症(痴呆症)の病態の主座は前頭連合野である」と言えるのかという疑問です。


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認知症について(3) ― 認知症 各論 ―

前回の最後に掲げた命題「認知症(痴呆症)の病態の主座は前頭連合野である」は、本当にすべてのタイプの認知症(痴呆症)に当てはまるのでしょうか?

答えが見つかるかどうか、まずは各認知症のタイプについてテキストから抜粋してみることにします。

A)Alzheimer型認知症
近時記憶障害が特徴的で、検査では記憶課題の遅延再生が顕著。
日常的には、約束を忘れる、置き場所がわからなくなる、同じことを初めてのように繰り返し話す
これは、海馬や海馬傍回などの側頭葉内側領域から変性が始まるから。
さらに、頭頂葉や側頭葉全体に変性が広がるにつれて、視空間障害、計算障害、書字障害、言語障害などの機能低下が加わってくる。
視空間障害で、複雑な図形模写ができなくなる。迷子になる。
言語障害は最初は喚語困難(あれ、それ、・・・)、続いて健忘性失語、語性錯語、最後は了解不良となり、流暢さや復唱は保たれている、「超皮質性感覚性失語」となる。
BPSDとしては、自発性低下、無関心、うつ状態が初期に目立つ。妄想や幻覚は発症から3、4年の間にピークに達する。徘徊や興奮、易刺激性なども中等症以上で現れ、落ち着きがなく引き出しを開けたり閉めたりするような繰り返し行動が見られるようになる。
物盗られ妄想は比較的初期から見られる場合がある。
メマンチンが、中等度〜重度のAD患者に対する認知、ADL,臨床全般評価の改善ありとの報告がある。ドネペジルをすでに内服している中等度〜重度AD患者に対するメマンチン併用療法による改善効果も報告されている。

B)血管性認知症
@認知症がある
 記憶障害や遂行機能障害が多い
ACVDがある
B両者に因果関係がある

CVDの発症からの時間経過は関係ない
多発性病変を認めることが多いので、無症候性のCVDを繰り返して認知症になると考えられる
海馬、視床、側頭葉白質、前頭葉白質などの単独病変の脳梗塞でも、特に優位側の病変では認知症が見られることがある。(ただし、これらの多くは発症初期に見られ時間とともに消失する。)
脳出血やくも膜下出血後でも認知症になりうる。
理論上、脳血管性認知症に対する治療は脳梗塞再発予防が主であり、抗血小板治療に加えてうつ状態に対しては抗うつ薬が処方されることがある。
しかし、認知症外来で見かける脳血管性認知症症例は、多くの例でADを合併している。
そのため、AD+血管性認知症、または混合型認知症と診断され、抗血小板治療とドネペジルが併用されるケースが多かった。
併用薬の選択肢が広がった現在、こうした混合型認知症に投与される認知症治療薬に注目したい。

C)Lewy小体型認知症(DLB)
変動する認知障害、パーキンソニズム、繰り返す具体的な幻視、うつ症状、妄想、幻視以外の幻覚などの精神症状、など
病初期には必ずしも認知症症状は前景に立たず、うつ症状などの精神症状が目立つことがしばしばみられる。
後頭葉の血流が低下しているとの報告があるが、視覚認知が障害されて幻覚を作るのかもしれない。
パーキンソニズムを伴うが、そもそもパーキンソン病の画像診断は確立していないのでDLBでも特徴的な画像所見は見つからない。
メマンチンはDLBの行動および・心理症状を悪化させる可能性がある。

D)前頭側頭型認知症(FTD)
前頭葉変性型と側頭葉変性型がある。
反復行動、常同行動、強迫的訴えにSSRIが有効との報告が多い。
いっぽう、ChEIの有効性については一定の見解がなく、有効性を否定する報告や脱抑制の悪化を示す報告もある。
メマンチンを投与して異常行動が改善したという少数報告がある。

E)大脳皮質基底核変性症(CBD)
肢節運動失行とパーキンソニズム+認知症症状
前頭側頭型認知症のような認知症症状で発症する例もある。
失行に左右差が見られること(あたかも麻痺があるかのごとく)でほかの認知症とは鑑別が付くが、画像診断は容易ではない。
前頭連合野や頭頂連合野が一側性に萎縮が進むと考えられるが、これを画像で判断するのは難しい。

F)進行性核上性麻痺(PSP)
E)に類似の疾患
眼球運動障害とパーキンソニズム+認知症症状
大脳皮質基底核のみならず、中脳や橋脳にある皮質下神経核が犯されるもの。
この病変にさらに前頭葉への連合繊維も犯されるため認知症症状が出るのではないかと考えられる。

<補記>
・リバスチグミン(イクセロン、リバスタッチ)は、 アセチルコリンエステラーゼとブチルコリンエステラーゼの両方のコリンエステラーゼに対して阻害作用を持ち、 アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のなかで最も吸収が早く、 
・ガランタミンは、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用に加えて、ニコチン性アセチルコリン受容体に対する増強作用を持っており、それら二つの作用により脳内のアセチルコリンの濃度を高め、神経伝達物質の放出を促進するとともに、受容体の感受性を亢進し、また神経細胞を保護。
・メマンチン塩酸塩は、グルタミン酸作動性NMDA受容体のアンタゴニスト。過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化を抑制することにより、神経保護および記憶・学習障害を抑制する新しいアルツハイマー型認知症の作用物質。

いかがでしょうか?
どのタイプの認知症(痴呆症)も前頭連合野が傷害されていることをほのめかしていると思いませんか?・・・思いませんよね。統一見解がないのですから、当たり前ですね。

残念ながら、文頭に掲げた命題を真とする根拠は文献からは見つけられませんでした。

ですが、認知・行動の中央執行機関である前頭連合野が傷害されたらさまざまな認知症(痴呆症)症状が起こりうると思いませんか? もちろん、タイプによっては前頭連合野以外の部位が同時に傷害されているのですが。
それでも、僕自身は、認知症(痴呆症)の定義は、「前頭連合野が傷害されたことによる種々の認知機能障害を中核症状として認めるもの」といってよいのではないかと考えています。


認知症は人間だけにみられるという人がいます。
人間として生きていくために必要な脳の機能、自発性・計画性・創造性・機転・注意分配能力を司る前頭連合野が傷害されると考えればうなづけなくもありません。
一方、犬にも認知症があるという人もいます。正式には「認知(機能)障害症候群」と呼ぶそうですが、人間以外に「認知症」という用語を使うことを控えただけのように思います。
前頭連合野が傷害されて認知症になるとするならば、前頭葉の発達の度合いに応じて認知症は生まれるのだろうと思います。ただし、前頭連合野だけが認知症発現にかかわっているのであれば、認知症にタイプなど存在するはずがありません。
先ほどの犬の認知症も併せて考えると、ごく一部の若年性アルツハイマー病を除いて、認知症は長生きする時代に生きている哺乳類生物にみられる脳の老化現象ではないかと思えてきます。
認知症の医学とは、抗加齢医学の一つに過ぎないのかもしれません。


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認知症について(4) ― おまけ ―

いくつかの、今後の参考にしたい処方例をここに残しておこうと思います。

(A)ガランタミン(レミニール)処方例
・Lewyの症例で、パーキンソン症候が主症状だったが、理解力低下が目立ってきてガランタミンを開始。ガランタミン16mgで幻覚・妄想・徘徊が出現したと思われる症例があった。(とりあえず、8mgに減量し、経過は良好)

・HDS-R 19点の混合型認知症の症例で2年間そのまま経過観察し、H24.7に気力低下やうつ気分が目立ってきたのでガランタミンを開始。表情が明るくなり、意欲的にリハビリに取り組む姿勢が見られるようになった。

・ADAS 16.0/70点のアルツハイマー型認知症例で、3年ほど前から物忘れが出てきてうつ状態が強くなった。会話をしていてもあまり認知機能の低下はなく、自信喪失に伴う虚無感が強かったのでSSRIとガランタミンを処方した。ガランタミン8rから何かをしようとする意欲がみられるようになったが、失敗が多いという。見守りや助言してあげる人がいないからだと家族に説明した。まだ途中経過である。

(B)リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロン)処方例
・DLB例で、リスパダールや抑肝散から開始。安定してからリバスタッチを追加。まだ日は浅いが現在のところ穏やかに生活している。
・2006年にすでに認知症と診断されドネペジルを処方されたが薬物過剰反応(発熱や意識障害)を起こしたとのことで当院を受診した症例。当初はDLBの知識も浅かったが、独断でドネペジルを1mgという少量投与で治療を開始して、徐々に増やしていった。経過は良好で、ドネペジル10mgになって2年間幻覚妄想などもなく経過したが、介護に抵抗が見られるようになって、ドネペジル5mgにメマンチンを追加した。メマンチン20mgを1ヶ月継続して再度、BPSDが悪化。リバスチグミンを8ヶ月継続中だが、良好。

・ドネペジル歴3年の症例。10mgを1年以上継続して嘔吐するようになり中止。現在、リバスチグミンで5ヶ月経過。

・Lewyの症例。ドネペジルを少量でいたが、症状の改善見られず、メマンチンを単独投与したところ、めまいが出現して中止した。現在リバスチグミンで、穏やかな経過。


(C)メマンチン(メマリー)処方例
・H18.12 HDS-R 17点、ドネペジルを5rで開始。H20.12 HDS-R 11点、ドネペジルを10rに増量。H22.6  HDS-R 6点。H24.9 意欲低下がみられメマンチンを追加(ドネペジルは5mgに落とす)。メマンチン開始の頃に1度だけ杖を振り上げることがあったが、その後は前よりも活気が出てきたようだ。

・H24.6 認知機能検査で意味性失語をみとめ、前頭側頭葉型脳萎縮を認めた症例で、それまで4年間服用していたドネペジル5rからメマンチン単独に変更した。家庭内で怒りっぽくなっていたのが、メマンチン15r位から穏やかになった。

・脳梗塞後遺症で失語症のある症例。認知機能改善が認められなかったのでドネペジルを開始。H22.6 パーキンソン様歩行を認めマドパーを追加。(幻視や妄想はない。)H23.5 ドネペジルを10rにした。1か月後くらいから意思表示がみられるようになり言動がスムーズになった。H24.2 食事をうまく口まで運べなくなった。箸がうまく使えないので食器を口に持っていこうとする。MRIでも脳の萎縮が進んできた。振戦はない。意欲低下と実行機能障害が進んだようだったので、ドネペジルを5rに落として、メマンチンを開始。以前のような状態に戻った。

・アルツハイマー型認知症の症例で、服薬や入浴・更衣などを拒否するようになり、H24.6 ドネペジル5rにメマンチンを追加。メマンチン15rから入浴するようになり、明るい表情で話すこともみられるようになった。ドネペジル増量はしていない。

・H23.4 HDS-R 12点、ドネペジルを開始。「トシだから物忘れは仕方がない」と笑っていたが、H24.1 夫や息子に対して易怒性がみられるようになりメマンチンを追加。穏やかになった。


症例報告ではありませんので、硬いことは言わずに軽く参考にして読んでいただけたら幸いです。
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認知症について(5) ― おまけのおまけ ―

昨年12月に、認知症治療に携わる実地医家として何でもいいから話してくれと頼まれまして、「師走の迷走」とふざけた題(迷想と迷走をかけました)で、内容もまた根も葉もないような話をしたのですが、実は僕としてはまんざら嘘でもない考えなのでここに載せておこうと思います。(その後も考えていることを少し補っておきます。)

迷想、その一

前頭側頭葉型認知症では、性格や社会性の障害が顕著に現れやすい一方、記憶や感覚、要素的行為は良好なので、初期には自信喪失している様子がよく見受けられます。
怒りという行動は、欲求が満たされない時の防衛反応の一つだととらえると、社会性が障害された状況下におかれた人の心に抑うつ性と怒りが同居しても不思議ではないと考えます。
うつ的気分を取り除き、怒りを鎮静化する努力を行った後に、認知機能改善の治療を加える方が良い結果が得られるのではないかと考えています。
そこで、前頭側頭葉型認知症では、いわゆる認知機能改善薬をファーストチョイスとする治療は考えずに、抗うつ薬(SSRI)や漢方薬などをファーストチョイスにしてみています。認知症だから認知機能改善薬を使わなければいけないというルールはないでしょう?


迷想、その二

DLB(レビー小体型認知症)の認知症症状の改善の適応をとった薬剤はまだありませんが、臨床の現場では様々な取組が行われています。
適応薬剤がないために、DLBと診断される症例の数は少ないかのように思われますが、実際にはAD(アルツハイマー型認知症)として疾患登録されている認知症の中に隠されており、その比率は20〜30%と僕はみています。(前頭側頭葉型認知症も同様にADの中に隠れていますがその比率はもう少し少ないだろうと思います。)
DLB症例には少量の認知機能改善剤がよい、と多くの臨床家が口をそろえておっしゃっていますが、本当にそうなのでしょうか?
そもそもDLB症状は非常に変化が激しいということは前述したとおりであり、周知の事実で、よく言われているように認知機能改善剤を所定量まで増やしていくと途中段階で症状の悪化を認める症例もあるのですが、所定量まで至ってさらに数か月間良好な効果がみられた症例もありました。それはどの薬だったのかと質問したくなるでしょう?それは…まだよくわかりません。新しい薬が揃ったばかりで、いろいろなデータを集めるにはまだ日も浅いので。
ただ、どの薬剤が合う合わないという以前に、いわゆる「さじ加減」が重要なのではないかという声が僕の頭の中で聞こえています。
変化の激しいDLBの症状を注意深く観察し、悪化の兆しが見えた時には時機を逸せず処方薬剤(認知機能改善剤)を減量の方向で検討する、あるいは一時休薬も考慮する。それはPDのOff 現象″時の対策に似ているかもしれません。

参考までに興味深いDLB症例を提示します。
長い経過を持つDLB症例:
2009年5月、某グループホームからの依頼を受けて往診を開始。すでにDLBと診断されて5年以上経過。
季節の変わり目にうつ症状のように、妄想や意欲低下が強くなる。
当初はグラマリール、抑肝散、エクセグラン散20% 0.25g 、ハルシオン0.25mg 1錠 、リスパダール1mg などで開始。
2010年1月、アリセプトを1mgで開始。
2010年6月、歩行障害が見られビ・シフロールをごく少量追加。
2011年6月、アリセプトを5mgに増量。
2011年9月に頭部MRIを行う機会がありこのときにプラビックスを開始、エクセグランは血中濃度が高値になっていたので中止した。
その後意欲低下食欲不振などが続く。
初診時から常に続いていた夜間の幻聴がひどくなり昨年3月には「『死になさい』と命令された」と言ってスタッフに「包丁を貸してください、だめならハサミでもいいです」と言い出したので、内服を変更した。
セロクエル錠25mg 、サインバルタカプセル20mg 、ビ・シフロール錠0.5mg、プラビックス錠75mg、リスパダール内用液0.5ml(1mg/ml)、リリカカプセル75mg、リバスタッチパッチ4.5mg、を処方。これで少しずつ精神的に穏やかになり、幻聴があってもパニックになることもなく3ヶ月経過した。
2012年9月、リリカを止めたせいか「パッチ剤は貼らなくてもいいという声が聴こえる」と言って拒否、入居者に対しても暴言を吐く行為が見られる様になった。
2012年10月、ジプレキサザイディスを2.5mgで投与して、一時的に穏やかになってもまた暴言を吐くので精神科を受診した。
(振り返ってみると、エクセグランもリリカも元は抗てんかん薬。これらを中止したことが悪化の誘因だったのかもしれない。)
リバスタッチは非常に良好な経過だった。この3年間の中で最も良い状態がみられ、折り紙の作品を笑顔で見せてくれたり、主治医に労いの言葉をかけてくれたりした。
現在、精神科の指示でレミニール8mg/日を服用中。16mgには増やさないで!との指示あり。


迷想、その三

リバスチグミンは、興奮タイプのBPSDがみられる症例に意外と有効なのかもしれないという感触を持っています。ドネペジルを服用していた症例で、進行して大声をあげたり、怒りだしたりするようになると以前はよく向精神薬などを使うこともありました。今でももちろんこうした薬のお世話になるケースは多いのですが、こういう時期にドネペジルを増量してもBPSDの改善はみられないことが多く、介護に抵抗するようになります。こんなときに、リバスチグミンに変更すると比較的高率に穏やかになってくれるように思います。貼り薬なので薬を拒否する症例にも使えるという理由だけではなく、薬効も期待できるように思うのです。難を言えば、皮膚掻痒や皮膚炎が高率にあるということですが。向精神薬の扱いは結構難しいので、これも参考にしていただけたらと思います。

最後に、これもやっぱり迷想だろうと思うのですが・・・

徘徊する人がいます、それも少なくない数で。
今のところ、今ある認知機能改善剤を使ってみても、これといえる薬に出会えません。そうかといって、向精神薬を使うと、仮に徘徊は治まったとしても、それ以外の「その人らしさ」を奪ってしまいかねません。
徘徊に対しては医療は無力のように思います。徘徊する人の、その行動から意味を汲み取りそれに沿うケアをする、それが正しい対応のように思います。とても忍耐と時間のいるケアですが、これこそが、介護や看護の原点として取り上げられる「ヒューマニティ」なのだと思います。


認知症について(1)から(5)まで・・・読み通してくださった方に深く感謝申し上げます。
過去およそ10年の認知症診療の中で、患者様やそのご家族、そして介護施設のスタッフやケアマネージャさんたちのお力をいただいて積み上げてきた内容をまとめてみました。
この中から正しいもの、間違ったものが少しずつ整理され、またいつか新たな総括をここに書き残す時が来るだろうと思います。
その時が…楽しみです。




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2011年11月12日

認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(1)

タイトル:認知症に対するリハビリテーション

サブタイトル:認知神経科学的根拠に基づくアプローチ

※この記事は、平成26年末に加筆修正を行い、さらに内容を一部変更して、理学療法ジャーナル(医学書院)第49巻第4号(H27刊)に掲載されました。

http://medicalfinder.jp/doi/abs/10.11477/mf.1551200184


はじめに


認知症(老人も若年者も含めて)の人におこなわれる専門的なリハビリテーションとはどんなものなのか、すでに確立されたものがあるのかどうか、・・・実は筆者はよく知りません。医療の現場では積極的な認知症のリハビリテーションは行われていないし、福祉の現場では、それぞれの施設がユニークな取り組みを行っています。たとえば、回想法がよいとか、音楽療法がよいとか、いうように。
そうした努力の中で、高度の認知症の人にリハビリは必要ないという意見も見られる一方、「ぼけても心は生きている」と強調する意見もあります。
こんな手探り状態ではありますが、現場ではそれなりに効果が見られているようです。
では、認知症のリハビリを考えるとき、どのような考え方が必要なのでしょうか?何を根拠にどのようなリハビリを導入したらよいのでしょうか?
ここでは、認知神経科学の分野で分かってきた知見を基に、専門用語にこだわらずわかりやすく、独断と偏見を交えて考えてみることにします。

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認知症に対するリハビリテーション : 認知神経科学的根拠に基づくアプローチ(2)

認知症のリハビリの目的

まず、認知症の人にリハビリを行う目的とは何なのでしょうか?
認知症のケア(介護も医療もここでは区別しません)を考えるとき、筆者はいつも「もし自分が認知症になったら」と考えることにしています。そこに矛盾しないケアを考える、それが最善のケアだと信じているのです。
以前にお話ししたことがある(<附>「もしもあなたが認知症になったら」)のですが、認知症の人はだんだん自分が今までの自分ではなくなっていく不安と、社会や家族の中で自分の位置(立場や居場所)が失われていく孤独感を感じて生きています。断片的によみがえる過去の記憶も、楽しいことばかりとはいえません。失敗や傷心を伴っていることもあります。それらは「戻っては来ない」記憶ですし、もう一度体験するだけの若さもありません。頼りない自分、認知症が進むとそうした記憶すら浮かんでくることが少なくなります。対象のない焦燥感は怒りに転換され、怒りの対象を求めます。認知症の人の内面(心の世界)は、いつも孤独感の中にいるわけです。
そのため、認知症の人をケアするにあたっての共通した視点は「さびしがらせない」ということになり、楽しんでもらえるケア(リハビリ)、一人ぼっちにさせないケア(リハビリ)、思い出を語り合うケア(リハビリ)などが取り入れられるようになりました。
こうした取り組みは、どれもケースバイケースでそれなりの効果を上げてきました。しかし、こうした取り組みも長く続けていくと、取り組む主体者側にも疑問と焦りが見えてきます。「笑わせていくら」「楽しませていくら」で、人間の尊厳は満たされるのか、歴史に刻まれないとしても少なくとも地域や家庭を築いて守り抜いてきたこの人たちへの畏敬の念は失われていないだろうか…と。
認知症の人を包み込んでいる孤独な世界観は、自分がなくなる、位置が失われる、新たな体験をする意欲も出ない、といった種々の要因から生まれた結果世界であります。
つまり、認知症の人に対するリハビリの目的とは、自己の意識を高め、主体性と協調性を取り戻し、「自他共に生きる」自分を見出すことだと言えます。「さびしがらせない」ケアは、その具体策であって、私たちはさらにその先にある、リハビリの目的を達成しているか否かを検証することが必要です。
以下に<附>「もしもあなたが認知症になったら」を掲載してあります
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